・一部、残酷描写があります。ご注意下さい。
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アンジールの遠征が、関係部署及び2ndや3rdに通達された。通常の遠征であるとして、極秘任務であることは当然伏せられた。彼が不在にする間の、演習担当教官の振り替えも滞りなく行われた。思えばそんなに特別な事ではなく、急な遠征は良くある事だ。誰もがそう思い、通達に目を通した。
ただザックスだけが、「極秘任務」の四文字に囚われていた。
神羅ビル51階のソルジャー指令室。
遠征が間近に迫り、アンジールはラザードの元で最終的な確認を行っていた。
「では、次に携帯電話についてだが。今回の遠征では特殊仕様のものを各自に支給、通常支給している個人のものは持参不可、だな」
「あぁ、それで頼むよ。既に必要台数は揃っていると思うが、大丈夫かい?」
「あぁ、確認済みだ」
アンジールは手元の書類を捲りながら、時折書き込みを加える。ラザードはモニターを見ながら、必要なデータ類を呼び出したりしている。
「アンジール……」
ラザードの呼び掛けに、アンジールは書類から顔を上げた。
「なるべく短期間の内に、カタを付けて貰いたい」
顎の下で両手を組みながら、ラザードが静かに告げた。アンジールは無言で頷く。
とある南海の海域に、幾つもの小さな島々が密集しているところがある。比較的大きな島には人々が生活していたが、大部分が無人島だった。そのうちのひとつの島に、反神羅を掲げる人々が集まっているという。
彼等は太古からその海域の島々を移動しながら生活している者達で、独自の文化や慣習を持ち、他文化を受け入れずに生活してきた。
たまたま、その付近にモンスター調査に出ていた部隊が消息を絶った。特に問題視されていた地域でもなかったので、部隊は少人数構成だった。突如、全ての計器類で部隊の行動がトレース不可となったのだ。追跡調査部隊の派遣が決定した時に、ソルジャーでも1stのみが発する緊急信号が入ってきた。それは生命維持に支障が生じる程、身体機能に異常が起こった場合にのみ発信される信号だった。心拍数と血圧、体温の急激な上昇、及び下降が起こった事を知らせる。つまり緊急信号を受信する事は、「全滅」を意味するものと認識されていた。それが、およそ一ヶ月前。
事態は深刻だとして、すぐに追跡調査部隊が派遣された。緊急信号の発信源を辿り、現地で彼等がみた光景は凄惨極まるものだった。
比較的海岸に近い部分の切り立った崖に、まるで見せしめのように並べられた遺体の数々。あまりにも形を変え、既に原形を留めていないものも多々あった。自らが装備していた剣に突き刺されて座る者、頭が胴体から離れ、自らの腕に抱かせられている者。風に晒され辺りには腐臭が漂い、大型の鳥や獣たちが集まり始めている。遺体や残された装備品の所々に、文字のような印が刻まれていた。
地理的状況が不利である事と、遺体の状況からして回収は断念。個人識別のタグのみ素早く回収して、その場を撤収した。帰還した部隊からは、彼等がゲリラ的な攻撃を仕掛け、気性が荒く好戦的、且つ残忍である事等が報告された。
「反神羅の勢力を放っておけないのは確かだが……、今回は科研がうるさい」
「科研が?」
ラザードが眉を顰めて、見るからに嫌そうな顔をした。
「事の発端はモンスター調査だ。科研曰く、あの地域には独自の進化を遂げた個体が、生息している可能性が高いらしくてね。そのサンプルが欲しいらしい。確かに周りを海に囲まれていて、多少の影響を受け合いながらも、ひとつひとつの島で独自に進化していてもおかしくはない。植生も特殊らしいから、そちらも興味があるんだとか……」
ラザードは言葉を句切り、デスクの上に置かれたカップに口を付けた。コーヒーは既に冷え切っている。
「研究も勿論重要だがね、今回は予想以上の被害を被ってしまったのだよ。全く、厄介毎はいつもこちらに持ち込んでくるな」
「まぁ、確かに……。しかし、我々も科研に頼る事は多々ある。持ちつ持たれつの均衡を、上手く維持しないとな。で、最終的には……」
アンジールの視線とラザードの視線が、宙で交差する。しんと室内が静まり返った。
「君に任せるが……、状況に応じては、」
ラザードの目が、無言で物語る。アンジールはそれを正しく読み取った。
「了解した。その際は、最終コードを発動させて良いんだな?」
「勿論だ。ま、君が発動させる事はないと思うが。セフィロスなんて、こういう事態の時は毎回のように発動させるじゃないか。まぁ、彼らしいと言えばそれまでだが」
銀色の、冷たささえ漂う髪の毛を翻しながら、剣を振るう友人を思い浮かべてアンジールは息を付いた。
「あいつは何事も容赦なく徹底して行うが、多少行き過ぎた部分はあると思う。まぁ、こればかりは目を瞑ってくれ」
「あぁ、勿論だ。君達それぞれの性格で、こちらは充分にバランスが取れていると思うよ」
「ラザード……まぁ、良いか」
楽しそうに笑いながら話すラザードに、アンジールは僅かにバツが悪そうな顔をした。セフィロスはともかく、ジェネシスはもっと大変だ。彼は感情的に動く部分があるから、勢いだけでとんでもない事態を引き起こしたりする可能性が高い。妙に熱くなるから、周りの状況をもっと見極めてから行動して欲しいと何度思った事か。自分の心配はともかく、この状況で友人二人の心配をしている自分に、アンジールは多少呆れた。
「さて、他に何か確認しておくべき事はあるかな?」
「あぁ、一点。ザックスの事だが……」
自分が教育係に就いているので、遠征で留守にしている間について確認しておきたかった。
「あぁ、君が教育係に就いている2ndだね。遠征の事は話したのかい?」
「あぁ、話しても支障がない範囲で。それで留守中の事だが、彼には大まかなトレーニングメニュー等を渡して行くつもりだ。しかし、彼の日々のトレーニング状況を把握して、それに応じて適宜メニューを組んでいきたいとも思う。そこで、通信手段を確保してもらいたい」
「承知だとは思うが、ザックス個人の携帯に連絡は不可だよ。通信網が通常とは異なるからね。極秘任務先から個人宛に連絡、しかも2ndには無理だ」
「あぁ、それは勿論承知している。だから、極秘文書扱いにしてくれないか?」
「手紙で……って事かい?」
「あぁ」
これだけネットワーク化が進み、情報がオンラインでやり取りされるようになっても、非常事態時の文書での遣り取りは今も充分残されていた。万能に見えるコンピュータは、所詮人間が作り出したもの。完璧なんてどこにも存在はしない。電力がないと起動さえしないし、データなんて消える時は一瞬。何処にいても繋がれる利便性がある反面、何処からでも攻撃して崩壊可能だ。
「定期的に送る報告書の類と共に、ザックス宛の手紙を入れさせて欲しい。その逆も然り」
「ふむ……まぁ、構わないだろう。どうせ君が直接管理するんだ、問題はない」
「済まない。助かる」
ラザードは椅子から立ち上がると、備え付けの棚の扉を開く。中からノート程の大きさで厚みがおよそ三センチある、黒いボックスを二つ取り出した。コンピュータと繋ぎ合わせて、ラザードがキーを叩く。短い電子音を発するとコードを抜き取り、アンジールにボックスを差し出した。
「このボックスを使いたまえ。ロックに君の指紋と、私の指紋を登録しておいた」
アンジールがラザードからボックスを受け取る。見た目より重いそれは特殊合金で作られた、重要文書を送る際に使われる輸送用のボックスだった。一部分をスライドさせると、小さなレンズが見える。そこに指先を当てると、登録した指紋を認識してロックが解除される。これで、ボックスの開閉が可能なのは、アンジールとラザードのみとなった。
「君からザックス宛の手紙が届いた場合は、彼をここに呼ぶよ。逆に、彼から君に手紙がある場合は、ここへ持ってきて貰う。ちなみに、手紙の遣り取りは口外してはならない事、きちんと彼に伝えてくれたまえ」
「あぁ、了解だ」
ピピピ……
アンジールの携帯から、電子音が発せられた。
「失礼」
ラザードに断ってから、携帯を開いて確認する。物資の件で確認したいとの旨のメールだった。
「すまないが、物資担当の者から確認の連絡が入った。……他に、何かあるか?」
「いや、大丈夫だろう。何かあったら、連絡するよ。宜しく頼む」
「了解。では、失礼する」
アンジールは一礼して、ソルジャー司令室を出た。そして、足早にエレベーターホールへ向かった。途中で思い出したように、アンジールが携帯の通話ボタンを押した。
「俺だ。今、そちらへ向かう途中だが、救急セットの数を、ひとつ増やして欲しい。可能か?」
(はい、大丈夫です。グレードはどれにしますか?)
「取り敢えず、針と消毒薬が入っていれば、どれでも構わない。あ、針は縫合用でなくて良い。済まないが、俺のところに加えておいてくれ」
(了解しました。では、後ほど)
「頼んだ」
通話を終えたと同時に、タイミング良く開いたエレベーターへアンジールは滑り込んだ。
20101204