モモイロ☆ユウギ 05


 ドキドキしてる。
 何でこんなにドキドキしてるんだろう。
 こうやってキスをして、優しく抱き締められて、耳元で熱く囁かれて。いつもの事なのに、物凄くドキドキしてる。
 この、桃色の所為……だよな。
 何度も「可愛い」って言われた。恥ずかしくて素直になれなかったのは、最初だけ。
 薄くてフワフワしてる服を着てても、当たり前の事ながら柔らかい胸なんてなくて、華奢でも何でもなくて、良い匂いがする訳でもなくて。
 でも、「可愛い」って。ありがと、嬉しい。
 …………。
 何だか……俺、ちょっと変、かも。どうしよ。
 今からアンジールに言おうとしている事、普段だったらちょっと恥ずかしくて言えない。でも、今は……。
 桃色の魔力、ってやつ?
 そう言う事にしといて。


 「なぁ、アンジール」
 沢山のキスと沢山の愛撫でくったりした体を、アンジールに預けてザックスは呟く。両腕で抱き締められて、肩口に頬を付ける。目の前の首筋に、唇が触れるか触れないかの距離。
 「何だ?」
 少し身動いで、唇を首筋に押し当てた。ちゅ。
 「ん……あ、あのさ……」
 「ん? 何だ」
 「う、ん……あの、えっと」
 「どうした。ほら、何でも言ってみろ」
 アンジールはザックスの頭を撫でる。その手付きはとても優しくて温かくて、きゅんとする。もうずっと、全身がきゅんきゅんしっぱなしだった。
 「あの、さ……甘えて、良い?」
 「あぁ、勿論。どんな風に甘えてくれるのか、物凄く興味あるな」
 「ん……、ぎゅってして?」
 「こうか?」
 強すぎない力で、ザックスの体をぎゅっと抱き締める。ザックスは嬉しそうに微笑んで、「好き、アンジール」と囁く。
 「手、貸して」
 アンジールが抱き締めていた腕を解いて、掌をザックスに差し出す。するとザックスは、それをとても丁寧に大事そうに手にとって、そっと自分の頬へ押し当てた。すりっ、と撫でるようにする仕種が幼子みたいで可愛らしい。
 こんなに可愛い仕種を見せたかと思ったら、ザックスはおもむろにアンジールのシャツの裾からするりと手を忍ばせた。滑らかな背中の感触が掌に気持ち良い。
 「脱がせて、良い?」
 「積極的だな。お前のも、脱がせて良いのか?」
 「……やだ」
 唇を尖らせて我が侭を言うザックスに、「残念」と笑いながらアンジールは自身のシャツのボタンを外そうとする。すると、ザックスがボタンに指を掛け外し始めた。逞しい胸板が露わになると、そのままそっと押してベッドにアンジールを沈ませた。
 さらり、とシフォンの音。
 「見下ろすのと見上げるの、どっちが好きだ?」
 口角を僅かに上げながら、アンジールが色めいた質問をする。ザックスはその唇に自分の唇を重ねながら、「両方好き」とゆっくり囁いた。


 ザックスはただ、ずっとアンジールを見下ろしている。じっと、無言で。全身で彼を見つめていた。
 ずっと燻っていた炎が、また少しずつ揺らぐ。アンジールを求める情欲が、波が砂浜を行ったり来たりするように、表れては隠れ、また表れて。
 自分を見下ろすザックスの目に、いつの間にか涙が溜まっている。瞬きしたら、零れ落ちてしまいそうだった。
 『「欲しい」って甘えれば良いものを……』
 そうするには、まだ羞恥心が残っているのだ。
 「ザックス」
 ビクリと体が揺れる。涙は零れなかった。
 「な、に?」
 「甘えるんだろ?」
 「…………」
 そっと桃色の指先を手に取ると、キスをした。舌先で指の腹を舐めると、ザックスの唇から切なげな吐息が漏れた。
 それでも、ザックスは言えない。触れる肌はこんなに色付いていて、こんなに熱いのに。
 「なら、俺が甘えてしまおうかな?」
 「え?」
 アンジールの腕がザックスを引き寄せると、その耳元に唇を寄せた。そして、言葉を紡ぎかけた時。
 「待っ、て。アンジール、待って……、俺が……」
 「あぁ、待つさ」
 目の前には愛しくて堪らない碧い瞳。さっきからずっと熱っぽくゆらりと揺れてて、艶めかしいのに可愛くて、快感の涙で濡らしてみたいなんて思ったりして。
 瞳も唇も何もかも、今すぐ濡らしてみたい濡らしたい。
 桃色の唇が、恥ずかしげに甘える。
 「俺が欲しいもの、……分かる?」
 「あぁ、分かる。間違いなく」
 「んっと……、それ……、くれる?」
 「あげる。お前に、早くあげたい」
 「…………」
 「欲しいか?」
 「ちょうだい」


 欲しい。全部、欲しい。
 ちょうだい。
 うん、好き。大好き。もっとキスもしたい。んっ……。
 待った……これ、邪魔だ。何だかまとわりつくみたいだし。それにアンジールともっと、ぴったりくっつきたい。
 うん、脱ぐ。やっぱ脱ぐ。……えっ!? 嫌だよ、恥ずかし……。い、やだ。
 あっ、嘘っ……、やっ……。
 ふ……ぁ。


 太ももが露わになるほど、短い丈じゃなかったのに。
 腰の辺りで、ピンクのシフォンが重なって揺れて、揺れて。さらさらさら。
 桃色の指先は絡め取られ、唇はいやらしく濡れて光って。
 甘い蜜が滲んで、零れそう。
 熟れすぎぐらいが、一番美味しいんだって。
 じらさないで……。

 早く、食べて。




 20100218