ハジメテ 中編


・ニョタ(女体化)で性的描写があります。
上記条件が大丈夫な方のみ、どうぞ。
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 「なぁ……可愛い?」
 女性の体になったザックスが自分を見上げてくる。アンジールから見れば冗談抜きに、猛烈に可愛い。正直、驚いてしまうくらいに。が、しかしザックスの瞳は何処か不安げな色を湛えていて、それがアンジールを戸惑わせた。
 ザックスは不安だった。アンジールを信じていない訳ではない。自分への「好きだ」と、「愛してる」の言葉も嘘ではないと分かっている。ただひとつ、どうしようもない事がある。
 自分はアンジールと同じ、男なのだ。
 もしかしたらアンジールは何も言わないだけで、女性と付き合いたいと思っているのかもしれない。思うのかもしれない。今は自分と一緒にいてくれても、いつ何時、女性と恋愛をして結婚をしても、それはおかしくも何ともない。この世の中から見れば普通なのだろう。
 小さな体も、華奢な手足も、滑らかできめ細かい肌も、柔らかい胸も、何処かしら良い匂いがする事も……自分は何ひとつ持っていない。だから、女性の体になってみたかった。もしかしたら、自分はとても辛い思いをするかもしれないけれど。もう元に戻れないかもしれないけれど。
 それでも、一度だけ……。
 「やっぱり、女の子の方が良いのかな……って」
 「お前、何言って、」
 「だって、俺、男だから……それにやっぱり、女の子の方が可愛いし……胸とか柔らかいし」
 「ザックス」
 止めろよ、俺。何言ってるんだよ。そんな事言ったって、アンジールが困るだけだろ。
 「アンジールが俺の事好きでも、結局俺は……男だから、きっといつか……、」
 続きは言えなかった。胸と喉の奥が締め付けられるようにとても痛くて、ザックスは瞳をきつく閉じた。例えいつかその時が来ても、自分が彼を引き留める権利なんて何処にもないのだ。
 沈黙がふたりの間を横切る。やがて、アンジールが小さく動いた。ザックスの頬をそっと撫でる。
 「俺の方が、不安なんだ」
 「え……」
 「今は側にいてくれるが、お前は俺より五つ以上若い。これからもっと色んな人と出会って、素敵な誰かと恋に落ちるかもしれない。その時、『良かったな』と笑顔で言ってやれる自信が俺にはない……情けないな」
 苦しいような笑顔を浮かべながら、アンジールはザックスの額に掛かる前髪を退けた。滑らかな、そして微かに上気している額に唇を落として言った。
 「お前を誰よりも、愛してるんだ……、性別なんて関係ない」
 そのまま覆い被さるようにしてザックスを抱き締める。いつものように体重を乗せたら苦しいかもしれないから、ほんの僅かに体を浮かせた。触れ合う胸は柔らかくて、腕の中の体は小さくて、それでも今抱き締めているのは紛れもなく自分が誰よりも愛しているザックスなのだ。
 「俺の事……、好き?」
 「好きだ」
 「愛、してる?」
 「愛してる。お前はどうなんだ?」
 「……愛してる、とても」
 言った途端、涙が止まらなかった。ポロポロ溢れて頬を伝い、長い睫の先に透明な滴が引っかかる。アンジールが「泣く程愛してる?」と優しく笑いながら聞くと、ザックスは何度も頷きながらアンジールに口づけた。
 「やっぱりお前、可愛いな。男でも女でも……、俺にはとても可愛い」
 アンジールの掌がシャツの上からザックスの胸にそっと触れると、掌から柔らかい感触が伝わってくる。知らない感触ではない。ただ、かなり久し振りなだけだ。別にこの感触に焦がれていた訳でもなく、酷く求めていた訳でもない。女性を求める性的欲求が自分でどうにもならなければ、そういう店に行けば良いだけだ。ただ自分は、ザックスと気持ちを通じ合わせてからも、そういう気持ちには一度もなっていない。
 要するに、ザックスをとても愛しているのだ。
 シャツの上から胸をゆるゆると触れられて、ザックスは密かに息を上げた。元々、胸への愛撫には弱くて、それは女性の体になっても何ら変わる事はなかった。ただ、いつもより少しだけ敏感なような気がするのは気の所為だろうか。
 「ん……、ぁ」
 「いつものように感じるのか?」
 「う、ん……」
 胸元に置かれているアンジールの手を見て、ザックスは体の奥をきゅんとさせた。胸の先から時折痺れるような感覚が伝わってくる。自分の体なのに、一体どんな風になっているのか全く分からなかった。
 「ザックス……見ても良いか?」
 「ん……良い、よ……」
 アンジールがシャツをたくし上げる動きに合わせて、ザックスは背中を少し浮かせた。胸元の上までたくし上げられたシャツの下から、きめ細かい白い肌と柔らかそうな胸が露わになる。アンジールの掌に余る程大きくもなく、少し小振りながらもハリがあり、その形は整って綺麗だった。程良く掌に収まる乳房を優しく揉むと、ザックスの唇から小さく声が上がる。色付いて立ち上がりかけている先端に触れると、感じるのか一際甲高い声を上げて体を捩った。
 「ほら、男の時と何ら変わらないな……気持ち良いんだよな、ここ」
 「うん……、あっ」
 触れられていた部分を生温かい感触が襲う。そっと頭を上げて見ると、膨らみを持った自分の胸元にアンジールが顔を埋めていた。彼の舌が自分の胸をゆっくりと舐めている。肌に触れるアンジールの舌の合間から、時折小さく見え隠れする淡い色をした先端はまるで可愛げな果実のよう。それがゆっくりと彼の唾液で濡れていく。
 ザックスは羞恥と快感に襲われて、両手でアンジールの頭を抱き締めた。それが知らず知らずのうちに頭を胸に押し付けているようになり、そんなザックスにアンジールは小さく笑いながらも、恥ずかしげに立ち上がった胸の色付きを優しく舐めて緩く吸い上げた。
 体の中心がきゅんきゅんする。それは熱くて切なくて、ザックスは自分の乳房に触れるアンジールの指先を握り締めた。
 「ア、アンジール……」
 「ザックス……ッ」
 ふたりの呼吸が速まる。吐息が熱を帯びて、肌がしっとりと汗ばむ。その先を求めて良いものか、アンジールは思わず考えた。
 『ど……どうしよ、俺』
 下半身が痺れるように疼く。アンジールが施す胸への愛撫はザックスの熱を確実に上げた。
 ドキドキする。そして、ほんの僅かに怖い。アンジールとはもう何度も肌を重ねたのに、まるで初めての時のように緊張している自分がいた。無理もない。ある意味ザックスに取って「初めて」なのだから。でも、このままは辛かった。体の奥では確実に快楽が目覚め、行き場のない熱が体中を駆け巡り、絶えずザックスを襲っていた。
 そんなザックスの様子をアンジールはきちんと察する。愛しい彼の僅かな変化も見逃さない自信があった。それだけ、自分は一番近くで彼を見て、感じているのだ。
 「辛いか?」
 「ん……」
 ザックスは縋るようにアンジールを見つめて頷いた。薄紅の艶めかしい小さな唇にちゅっとキスを落とすと、掌を滑らせてザックスの細く括れた腰に触れた。腰骨に擦るように触れると、その体がピクリと跳ねた。そのまま下着の上から中心部分へと触れる。
 「あ……嫌っ、ダメッ」
 無意識にザックスの足がきゅっと閉じられる。本当は触れて欲しかった。でも、怖くて不安だった。
 「嫌か?」
 「…………」
 「でもこのままは、辛いんだろ?」
 ザックスは小さく頷いた。アンジールがザックスに顔を寄せた。お互いの額をコツンと付けると、唇に小さなキス。そのままアンジールは優しく囁いた。
 「大丈夫だ、怖くない」
 「アンジール……」
 「優しく触るから……心配ない。嫌だったらすぐに止める」
 「本当に?」
 体をきゅっと抱き締められた。耳元で「嘘なんて言わない」と言われ、そのまま耳朶を甘噛みされた。その甘くて優しさに満ちた声音に背筋がゾクゾクした。ザックスはアンジールの首に両腕を回して力を込める。そして、「触って」と熱い吐息を漏らしながら小さく囁いた。
 ザックスの下着の中に手を忍ばせると、アンジールの指先が熱く濡れた。
 「濡れてる」
 「あ、ん……あぁっ」
 いつもとは全然異なる感覚だった。見ていないけれど分かる。アンジールの指先が中心を撫でるように動き、そのまま宛がわれてツプリと沈み込む。ザックスの内はアンジールの指先を熱く柔らかく包み込み、透明な体液を絶え間なく溢れさせていた。アンジールはザックスに優しく声を掛け続けながら、内に沈み込ませる指の数を増やす。節が綺麗に出ている中指で内壁を擦り上げるようにすると、ザックスの唇から酷く艶めいた声が零れ落ちた。それを聞いたアンジールは小さく微笑む。
 「ここ、気持ち良いか?」
 「う、ん……気持ちい、い」
 「見たいな」
 「やぁ……ダ、メ」
 自分でさえちゃんと見た事ないのだ。ザックスは恥ずかしさの余り、尚一層アンジールの首筋に抱き付く。「ずっとこっち見て」と言いながら碧い瞳がアンジールの顔を覗き込む。瞬きの度に大きな瞳がキラキラと輝き、今にも零れ落ちてしまいそうで、とても愛らしい。
 「残念」
 「バカ……ぁ」
 ちゅっちゅっと啄むようなキスを繰り返すと、ザックスは嬉しげに微笑んだ。それはとても可愛らしい笑顔だった。
 「ずっと、お前の顔を見てる」
 「うん、見てて……」
 「いくところも見てる」
 「あっ」
 内に挿れられた指先が探るように動き出す。何度か繰り返してるうちに、ある一箇所でザックスは甘い声を上げ続けた。そこに触れられる度に体の奥が疼き、とても気持ち良いのだ。
 「あっ、やぁっ……ダメ、アンジールッ、嫌っ」
 「嫌か? 止めるか?」
 無理強いしたくないアンジールが指先の動きを止めると、ザックスは首を横に振った。「いきたい」と言いたかった。でも、恥ずかしくて言えない。ザックスはただアンジールを潤んだ瞳で熱く見つめる。アンジールが反対側の手でザックスの頬を撫でた。
 「いきそうか?」
 「う、ん……も……いっちゃ、う」
 そのまま、ひっくとしゃくり上げながら泣き出してしまったザックスに、アンジールは困ったように笑いながらその涙を舐め取った。指先の動きが僅かに速くなる。濡れた音が響いて、それがふたりの熱を上げ、更に気持ちを加速させる。
 ザックスの両脚が小刻みに震え出す。腰を浮かせるような動きに、限界が近い事を知る。
 「アンジールッ、ねぇ、もぅ……やあぁ」
 「ほら、見ててやるから……、いっちゃうか? ん?」
 「いっ……ちゃう、よぉ……あっ、」
 「あぁ、可愛いな……お前、凄く可愛いっ」
 「やぁ、あっあっ……、あぁーっ!!」
 「ザックスッ」
 叫び声に近い嬌声を上げながら、抱き締めた体が反らされてビクビクと痙攣する。内に挿れた指が、柔らかくしなやかな内壁にきつく締め付けられる。やがてザックスの体はくったりとベッドに沈んだ。快感の余り、気を失ってしまったらしい。アンジールは沈めたままの指先で、数回内壁を擦るようにして静かに抜き出す。指先の感触から熱い体液が溢れ出してくるのが分かった。思わずその目で見たい衝動に駆られたが、ザックスが先程「ダメ」と言った時の顔を思い出して断念した。
 「……全く、どうしてくれるんだ……」
 頬を上気させたまま目を瞑っているザックスを見つめながら、ポツリと呟く。改めて見ると、ザックスは胸を露わにし、下着も半分脱いだような状態のあられもない格好でベッドに横たわっているのだ。アンジールは如実に変化している自分の体を見て、小さく溜息をついた。
 ザックスの体液でいやらしく濡れた指先を見つめる。目の前に翳し、そっと舐めた。それは何だか、酷く甘い気がした。
 「…………」
 アンジールはザックスのたくし上げられているシャツを下ろして、そっとブランケットを掛けた。滑らかな額に優しく触れて、自身はバスルームへと向かった。




 20100904