コイしたい。 04


 一日の終わり。
 お風呂でぽかぽかに温まったふたりは、ベッドの上でのんびりと過ごす。
 「はっぱのおふろ、たのしかったねー」
 ザックスがほんのりと上気した頬で、アンジールに向かって笑う。今日は菖蒲湯だったのだ。アンジールも菖蒲湯は初めてで、花屋の店先で売っているのを見つけて、試しに買ってみた。緑の色が鮮やかで、バスルームに爽やかな菖蒲の香りが広がった。言い伝えに乗っ取って、菖蒲をザックスの頭に巻き付けてやると、大喜びした。
 「ザックス、眠いだろ?」
 とろんとした瞳で、ザックスは頷いた。今日は一日大はしゃぎだったのだ。アンジールはベッドサイドの間接照明の明るさを小さくした。ザックスをきちんとベッドに横たわらせて、自分も静かに横になる。ブランケットを引き上げようとしたら、ザックスがもぞもぞと寄ってきた。体に触れる小さな手足が、とても温かくて心地良い。
 「ねー、こいはー?」
 「大丈夫、一緒にベッドの上にいる」
 アンジールの言葉に、ザックスが小さく起き上がった。ブランケットの上に、静かに横たわっている鯉のぼり。アンジールが広げておいたのだ。「いたー」と安心したように呟いて、ザックスは再び横になった。
 アンジールはそっとザックスを抱き寄せた。柔らかな髪の毛をそっと梳いて、小さな額にキスをする。
 「あんじーゆ」
 「何だ?」
 「ありがとー」
 ザックスは「うふふ」と柔らかく笑った。その笑顔はまるで、天使のようだった。
 「どういたしまして」
 アンジールの指先がザックスの頬に触れると、ザックスの小さな指先にそっと掴まれる。
 『手を繋ぐのが大好きなんだよな、お前は……』
 静かで優しい時間が過ぎてゆく。アンジールは目を閉じて微笑んだ。
 「あんじーゆ……」
 「何だ?」
 そっと目を開けてザックスを見ると、彼の瞼は今にも閉じてしまいそうだった。それでも、碧い輝きはハッキリとしている。
 「ザッくんねー、こいしたー」
 「あぁ、上手だったな」
 日中のザックスを思い出して、アンジールはクスリと笑った。ずるずる引きずられたり、ぐるぐる巻きにされた鯉のぼりも、今は静かに横になっている。
 アンジールの指先を、ザックスの小さなそれがきゅっと握り締めた。
 「あんじーゆ……」
 「ん?」
 「こい、してゆ?」
 「え、」
 ザックスの今にも眠ってしまいそうな小さな囁きに、アンジールは胸の奥を掴まれた気がした。一瞬、本来のザックスの声音と重なったのだ。
 「ザッくんねー……、こいしてゆー……、ずっと」
 そのままザックスは、すやすやと小さな寝息を立て始めた。ただアンジールだけが、鼓動を僅かに早めていた。
 『なぁ、……恋してる?』
 何処からか、眩しいまでの笑顔と共に彼のそんな声が聞こえてきそうで、隣で眠る小さなザックスを、アンジールは蒼い双璧を細めて見つめた。
 「ずっと、恋してる……、」
 アンジールはザックスを静かに両腕で包み込んだ。そして、小さく小さく囁く。
 「愛してるさ……、お前がどんな姿でも、ずっと」
 酷く満ち足りた気持ちで、アンジールは暫し、腕の中の小さな温もりを抱き締め続けた。





 ずっと
 こいしてる
 あいしてる




 20120503/初出20100502

以前発行したコピー本の再録です。
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