きみからのおくりもの 05


●たのしいごはん おいしいごはん●


 「これで良し、と」
 アンジールはキッチンのテーブルの上に並んだ皿を見て、満足そうに頷いた。大きな皿と小さな皿が並んでいる。それぞれには、大きなハンバーグと小さなハンバーグ。どちらにもケチャップがかけてあり、小さい方には顔に見立てた目と口が描かれている。皿の端には彩りも兼ねた付け合わせに、人参の甘いグラッセとブロッコリー。
 リビングのローテーブルに運んで、夕食の準備は完了だ。
 「ザックス……、ザックス」
 ラグマットの上で寝てしまったザックスを、アンジールは小さく揺らしながら声を掛ける。
 「ん……」
 「夜ご飯だぞ。お腹空いただろ? ザックスの好きなハンバーグだぞ」
 アンジールの言葉にザックスは徐々に目を覚ます。瞼を眠たげに擦って、ゆっくりと目を開けた。
 「おはよう」
 「んー」
 アンジールに抱き上げられて頭を撫でられると、ザックスは手足を反らして伸びをする。アンジールは落ちないように支えて、「夜ご飯にしような」と笑った。
 自分の隣にクッションを重ねて置いて、ザックスを座らせる。体が揺れないように安定させてやった。
 「わあー!! はんばーぐー!!」
 フォークを握ったザックスに、アンジールは言った。
 「ザックス、食べる前は何て言うんだ?」
 ザックスの動きがピタッと止まる。フォークを置いて、小さな手を顔の前で合わせると、「いただきましゅ」と挨拶をする。アンジールに頭を撫でられて、ご機嫌に夕食の時間が始まった。
 食事の時間は、自分が食べる事よりザックスの世話が中心だった。フォークやスプーンは使えるものの、大きな物しかないので使いにくそうだった。それでも「自分で食べる」と言い張るので、アンジールはザックスのしたいようにさせていた。
 「ザッくんねー、けちゃっぷねー、しゅきー」
 ケチャップのかかったハンバーグを頬張りながら、もごもごとした口調で話す。
 「うん、ケチャップが好きなんだよな。でも、お話は後。まずはちゃんと食べてからだ」
 「んー」
 ザックスが食べるのに集中している間に、自分も食事を勧める。焼け具合は丁度良くて、今日もなかなか美味しく出来た。
 「あんじーゆ、はんばーぐしゅき?」
 ニコニコの笑顔で聞いてくる。アンジールが「好きだ。美味しいよな」と答えると、「はんばーぐおいしー」と言いながら残りの一切れをフォークに刺した。口の周りにケチャップを付けながら、大きく口を開けてハンバーグをもぐもぐと頬張る。
 「ケチャップついてるぞ」
 アンジールが指先でザックスの小さい口元からケチャップを拭うと、そのまま指先を舐める。それを見たザックスが、アンジールのハンバーグにかかっているケチャップに自分の指先を付ける。「あっ」と思った次の瞬間には、アンジールの口の周りにザックスのケチャップが付いた指先が押し当てられた。
 「こら、ザックス。ご飯中は遊ばない」
 「だって、ザッくんもー」
 アンジールに注意されても、そう言いながらザックスは自分がアンジールに付けたケチャップを、再び自分の指で拭って舐めた。アンジールが自分にしたのと同じ事を、自分もアンジールにしたかったのだ。
 「ザックス……」
 「あんじーゆ、おんなじー。ザッくんとおんなじー」
 何だかもう怒る気にもなれず、アンジールは仕方ないなと笑った。
 実は一瞬、ドキリとした。思わず、本来のザックスの事を思いだした。彼も似たような事をするのだ。その唇で、直接。
 『似てるな……と言うか、これでも一応、本人なんだよな』
 当の本人は、満足そうな顔をしてフォークを置いた。皿の上には人参とブロッコリーが綺麗に残されている。
 「ザックス、まだ残ってるぞ?」
 「ザッくん、おなかいっぱーい」
 視線を反らすように、ふいと横を向く。そう、この小さなザックスは緑黄色野菜があまり好きではないのだ。本当にお腹がいっぱいなら無理に食べさせる事はしたくないのだが、嫌がって食べないなら、栄養面を考えても少しは食べさせたい。
 「ザックス、ひとつだけで良いから食べよう。な?」
 「えー」
 ザックスが小さな頬を膨らませる。やっぱり嫌いだから食べたくないようだ。アンジールは自分の皿に乗っている人参を食べた。甘くて美味しい。
 「折角作ったのにな……、一緒に食べようと思って」
 ザックスが「一緒に」という言葉に反応する。アンジールと皿の上の人参を交互に見る。アンジールはもう一押しだと思った。
 「ザックスと一緒に、食べたかったな。こんなに美味しいのに」
 少しわざとらしく言いながら、アンジールは人参を食べた。ザックスはじーっとアンジールを見つめた。そして、思い切ったように言う。
 「いっしょ? ザッくんといっしょー?」
 「うん、一緒に食べたいな」
 「うん!! あんじーゆといっしょー、ザッくん、いっしょたべゆー」
 そして「あーん」と言いながら、口を大きく開けた。アンジールが人参を入れてやると、手で口を押さえながらもぐもぐと食べる。最初は目を瞑って「んー」と唸っていたものの、思ったより美味しかったらしくて、終いには笑いながら飲み込んだ。
 「美味しかっただろ?」
 「うん!!」
 「ザックス、人参食べられるな。偉いな」
 アンジールはザックスをぎゅっと抱き締めて、頭を沢山撫でた。
 「ザッくん、えらいー?」
 嬉しげにアンジールを見上げる。こういう瞬間の表情は、本来のザックスとまるで同じだ。
 「偉いぞ。頑張ったな」
 笑い声を上げながら自分に抱き付いてくる小さな体を、アンジールは微笑みながら、愛しさを込めて両腕で包み込んだ。


 たのしいね おいしいね




 20100406