「かゆー」
遊んでいた手を止めて、ザックスが首の辺りを小さな手で掻き出した。ソファに座ってそれを見たアンジールが、よもやと思いすぐ側に寄る。
「ザックス、ちょっと見せてみろ」
「んー」
むずがるザックスをなだめて小さな手を退かすと、首元が赤くなっていた。あぁ、やっぱり……。間違いない。
これは、あせもだ。こまめに汗を拭いたりして気を付けていたが、とうとう痒がるようになってしまった。
「あせもができてしまったな……気を付けていたんだが」
「あしぇも?」
ザックスは「何それ」という顔でアンジールを見上げる。
夏だから暑いと分かっていても、今年は例年になく猛暑だ。エアコンで室内温度の調整は大切だと思いつつ、実はアンジールはエアコンが余り好きではない。故郷の実家にはエアコンはなかった。なくても過ごせる季候だったという事もある。しかしそれ以上に、自然の暑さや寒さを自分の体が感じなければ、体が暑さ寒さに対して弱くなってしまう気がするのだ。
しかし、ここミッドガルの夏をエアコンなしで過ごすという事は、ある意味無謀である。人工物にまみれた都市は絶え間なく熱を生み出し、吐き出し続けているのだから。
そんな訳で適度にエアコンは使っているのだが、なるべくその他の方法で涼を取ろうともしているのである。だが、ザックスがついにあせもを発症してしまったので、少々方向転換をせねばならないとアンジールは思った。
あせもで赤くなってしまった部分を確かめて、そっと指差しながら「ここが痒いか?」と尋ねる。するとザックスは何とか自分でも見ようとするのだが、如何せん自分の首元はなかなか見えない。「ここー」と言いながらまた掻こうとするので、アンジールは慌ててそれを止めた。
「ザックス、掻いたら酷くなってしまうから我慢。タオルで拭いて、薬を付けような」
「ザッくん、かゆー。ここ、かゆかゆー」
痒いのを我慢するのは大人でも至難の業だ。ましてや子供はそれ以上だろう。取り敢えず今は、汗を流すためにシャワーを浴びさせるべきだと思う。そして何とか痒みを抑えて、ザックスの意識を痒さから反らせてしまわないと。これからあせもが治るまでの間、ザックスには沐浴を行うようにしなければ。
『沐浴……、そうだ』
アンジールがぽんと拳を叩いた。ザックスが何事かと、きょとんと見る。
「よし、ザックス。今からプールをしようか」
「プール!!」
アンジールの言葉を聞いた途端に、ザックスの大きな瞳がきらきらと楽しげに、そして期待に満ちて輝く。
「あぁ。暑いからプールで遊ぶか?」
「しゅるっ!! ザッくん、プールしゅるっ」
ザックスが勢い良く立ち上がって、嬉しげに両手を挙げると何やらポーズを取った。これはザックスの性格なのだろう、小さくてもリアクションは大きくて、見ていてとても面白い。
「じゃあ、今からプールの準備をするな。ザックスも手伝ってくれるか?」
「うんっ!!」
アンジールは先日買ってきた、いや思わず買ってしまったお子様用ビニールプールを準備すべく、何処か楽しげに立ち上がるとザックスをひょいと抱き上げた。
20110911
昨年は個人的にあせもに悩まされたので、今年はせっせと予防しました。痒くない!!