「ザックス、それだと寒いからこっちにしよう」
「やだっ!! ザッくん、うしゃたんがいいー」
「でも、それだけだと風邪を引いてしまうから、お出掛け出来ないぞ」
「えー、やだー。あんじーゆとおでかけしたーい」
「じゃあ、上からこれを着よう。そうしたら寒くないから。こうすれば、おみみも出るだろ?」
そう言いながらアンジールは、うさぎ耳の付いたパーカーを着ているザックスに一回り大きな、それでもアンジールから見ればとても小さいコートを着せた。パーカーのフード部分はきちんと外に出して、うさぎ耳が見えるように。
「ほら、これでいいだろ?」
少し長めのうさぎ耳をザックスの肩の辺りから垂らす。
「んー」
ザックスは少し不満そうに小さく頬を膨らませている。
「大丈夫、ちゃんとうさちゃんのお耳って分かるぞ」
「ほんとー?」
「あぁ、本当だ」
アンジールの言葉に、漸くザックスがにっこりと笑う。うさぎ耳の両先端がちょっとヨレヨレしているのは、ザックスが口に含んで舐めたり噛んだりしてしまうからだ。幼児がブランケットやタオルの角をそうしてしまうように、小さいザックスはうさぎ耳の付いたパーカーを着るとその耳を口にしてしまうのだ。
「うしゃたんでおでかけー」
「良し、お出掛け行こうな」
アンジールは少し着ぶくれているザックスを、軽々と抱き上げて部屋を後にした。
以前通販で買ったうさぎ耳付きパーカーはザックスのお気に入りだ。しかし、冬に着るには素材が薄いので、今回のように上からコートの類を着せなければならない。しかし、ザックス本人はそれが余り好きではないようだ。要するに、うさぎ耳付きパーカーを一番上に着たいのだ。
アンジールは子供服の通販サイトを幾つも巡って探した。もう少し冬らしい暖かそうな素材で出来ていて、それなりに防寒してくれるうさぎ耳付きパーカーを。しかし、これがなかなか見つからない。運良く見つかったとしても、ザックスが好みそうな色は売り切れで、ピンクやリボンが付いていたりする女の子向けのものしか残っていなかったのだ。
「ふむ、案外ないものだな……」
アンジールはデスクの椅子から立ち上がると、ベッドの中ですやすやと眠っているザックスに近寄った。いつ見ても、とても可愛らしくて幸せそうな寝顔だ。在り来たりな例えだけれど、天使のような寝顔だと思う。時折、くんと鼻を鳴らすような音がして小さな口がむにゃむにゃと動き、それがまたとても可愛らしい。見ていて飽きないのだ。
枕元の近くには羊の毛のようなもこもことした質感の膝掛けが、くしゃくしゃと小さく山になっている。リビングで遊んだりする時やアンジールの膝の上で眠ってしまった時に、これを敷いたり掛けたりしていた。
「こんな感じの生地でパーカーがあれば良いのだが……、ん?」
アンジールは膝掛けを持つ手を止めた。探してもないなら作ってしまえば良いのではないだろうか。こんな感じの生地を探して、今あるうさぎ耳付きパーカーを真似て。幸いに手先はそれなりに器用な方だと思う。
すやすやと眠るザックスの頭を一撫ですると、直ぐさまパソコンの前に戻る。そして、アンジールは早速検索を掛け、あれこれとサイトを巡り始めたのだった。
それからおよそ二週間後。
「ザックス、買い物に行くぞ。夜ご飯のカレーに入れる野菜とかを買いに行こう」
「はーい!! おかいものーおでかけー」
今日のザックスは青いパーカーを着ている。フード部分は普通のパーカーだ。今日はうさぎ耳付きパーカーはお休み。朝ご飯の時にザックスがうっかりジュースを零してしまったので、洗濯機で綺麗にお洗濯されて今はベランダで干されていた。
「あのなザックス、今日はこれを着てみないか?」
「なにー?」
「これだ」
アンジールがザックスの目の前に広げたのはパーカーだった。それも、あの膝掛けのようなもこもことした。
「あー、もこもこっ!! これ、ザッくんの?」
「勿論。それに、ほら……」
フードの部分を摘んで持ち上げると、そこには少し長めのうさぎ耳が付いていた。
「うしゃたん!! うしゃたんのおみみー」
ザックスの大きな碧い瞳はきらきらと輝いて、熱心に目の前のパーカーを見つめている。アンジールは心の中でガッツポーズをして、早速ザックスに羽織らせてみた。
オフホワイトの生地は柔らかくもこもことして、まるで羊のよう。薄水色の裏地には、脱ぎ着し易いように滑りの良さそうな滑らかな生地が使われている。チャックは細かすぎないものを用いて、生地と同色系のものにした。でもザックスが分かり易いように、持ち手の部分には青色の毛糸で作ったポンポンを付けた。フードには、勿論うさぎ耳。丈は防寒を考慮して少し長めのお尻が隠れるくらい。そして、そのお尻の部分には……。
「ザックス、お尻に何があるかな」
「おしり? ……あーっ!! うしゃたんのしっぽー」
パーカーを羽織ったザックスがお尻の部分を触りながら叫ぶ。ぴょこぴょこしながら一生懸命に後ろに首を回そうとするので、アンジールが尻尾の部分をザックスが見えるように前へたくしよせた。そう、お尻の部分にはうさぎと同じような丸い可愛らしい尻尾が付いていた。この尻尾はスナップで着脱が可能なので、座ったり遊んだりして邪魔な時は外してしまう事が出来る。
アンジールがチャックの最初を噛み合わせると、ポンポンの付いた部分をザックスの小さな指先が摘んで引き上げる。小さな頭にフードを被せると、ふわんとうさぎ耳が揺れた。
「ザッくんうしゃたーん!!」
両腕を真っ直ぐ万歳のように上げて、ザックスが叫ぶ。その姿はまるでうさぎの着ぐるみを纏ったようで、アンジールにとっては猛烈に可愛い以外の何者でもない。ザックスは確かめるように何度もフードのうさぎ耳を持ち上げたり、首を振って揺らしてみたり、お尻の尻尾に触ったりしている。
「気に入ったか?」
「うん!! ザッくんうしゃたん、かわいいー?」
「とても可愛いな」
そのままひょいとアンジールがザックスを抱き上げると、「きゃー」と楽しげな歓声が上がる。
「これだと寒くないだろう」
「うん。ザッくんうしゃたんもこもこ、しゃむくないっ」
「良かったな」
フードを被っているザックスの顔を覗き込む。その顔は嬉しさの余り頬が紅潮していて、アンジールは思わず笑った。初めての事にあれこれ調べながら試行錯誤して自分なりに作ったが、思った以上に上手く仕上がったと思う。裁縫の器用な母親に似たのかと思うと有り難かった。しかもザックスがこんなにも喜んでくれるなんて。この笑顔と喜び様を見て、アンジールはもう大満足だった。
「あんじーゆ、ありがとー!! だいしゅきっ」
ザックスは満面の笑みを浮かべると、アンジールの頬にちゅっちゅっと可愛らしいキスをして、その首筋にきゅっと抱き付いた。
もこもこのうさぎ耳が、柔らかくふわんと揺れた。
20110118
「おみみ」の冬バージョン。
アンジールは手先が器用で、せっせとザックスの服や小物を手作りしてるに違いないと思ってます。笑。