こんなに綺麗な星空をふたりで見るのは久し振りだ。
都会の喧噪から離れて、もう何日目だろう。
滅多にない長めのオフに、「『何もしない』をしよう」と訪れた地。人里離れた、静かな場所にふたりきり。
窓ガラス越しに見上げた空には、沢山の星が瞬いている。残念ながら、星座を読むのは得意ではない。
きっと、あんたなら良く知ってる。尋ねたら、きっと丁寧に解説してくれるに違いない。
寒いと分かっていても、俺は思わずバルコニーに出た。案の定、肌を撫でる空気が刺すように冷たい。途端に自分の吐いた息が白くなって霧散する。
「風邪引くぞ。ほら、ちょっと待て」
少し慌てたような足音が部屋の奥へと消えた。そして、すぐに戻ってくる。
ふわり、とした柔らかさと温もりに体を包まれる。彼がブランケットを掛けてくれたのだ。
「サンキュ。でもアンジールだって、風邪引く……」
「俺は寒さにはそこそこ慣れているからな」
そう言って笑いながら、ブランケット越し、背後からそっと肩を抱かれた。寄せられた頬の温かさを感じる。
「でもさ……」
俺は彼を振り返ると、腕を上げてブランケットの片方を差し出すようにした。彼が俺の意図を読み取って、ブランケットにくるまる。
一枚のブランケットに、身を寄せてふたり。
「有り難う」
「うん」
空を見上げる。
凛と冴え渡る夜空。聞こえるのは、微かに震える空気の音。それさえも、闇に吸い込まれてしまいそうだった。
いつしか、ふたりして頭からすっぽりとブランケットを被る。ふたりだけの小さな、でもとても幸せな空間が生まれる。
「なぁ、あの星……、凄く明るい」
「あぁ。あの光は、一体いつ光ったのだろうな」
「どういう事?」
遙か宇宙の彼方から届く光。
今、この目に見えている星の光は、実際にはずっとずっと前に放たれた光。
果てしない暗闇を越えて、気が遠くなるような時間を越えて。
今、届いた光。
繋ぎ合う手。体を寄せ合って、お互いの白い息に包まれる。
寒くない、と言ったら多分嘘だ。
でも、俺達は暫くそこから動かなかった。ふたりで静かに分け合う温かさを味わう。
「もし……、」
「もし?」
「今この瞬間の俺達を、ずっとずっと後……それこそ何百年も何千年も後に、何処か遠い星にいる誰かが見たりするのかな」
あの星の光のように。
「するかもしれないな」
そっと見つめ合う瞳。
「……うん。そうだといいね」
碧に星が光って、静かに伏せられる瞼。
「ずっと、愛してる」
今この瞬間の俺達を、果てしない夜空に放って、永遠に。
こんなにも愛しい人と、光になって突き抜ける。
この広い宇宙の何処かに、たった今、俺達と同じような事をしている人達がいれば良いと思った。
ここから、幾億光年。
ここまで、幾億光年。
20120219
1光年は光が1年間に進む距離。
例えば、距離1光年の星を観測する事は、その星の1年前の様子を観測しているという事。