気付かれないように、ばれないように。
何気ない振りして抱き付くって、実は結構大変なんだよね。
鬱陶しげな顔をされても、笑ってやり過ごせば平気。
いつだって、ドキドキしてる。
ばれるなよ、俺。
非常に人懐っこい。
事ある毎にくっついてくるんだ、こいつは。
別に嫌ではないが、時には少々鬱陶しくも感じてしまう。
じゃれつく仔犬。
そんな感じだ。
……でも、
* * *
「アーンジールーッ!!」
「っ……と、」
自分が教育係に就いている2ndのザックスは、俺を見つけるといつもこうして所構わず駆け寄って飛び付いてくる。
ここは神羅ビルの廊下。ちなみにこのフロアの廊下は、原則走ってはいけない。
今日は助走の距離が長かったのか、咄嗟に構えたものの少しふらついてしまった。
「何だ、ザックス。危ないだろ、それにここの廊下は走るな」
「ごめんごめん」
そしてザックスは小さく「えへへ」と笑いながら、頭を掻いた。
「お前、今日はこれから講義だろう?」
「うん。なぁなぁ、終わったらヴァーチャルでの訓練、付き合ってくれる?」
「あぁ。今のところ予定も入ってないし、大丈夫だ」
「やった!! んじゃ、俺行ってくるな」
「あぁ、後でな。頑張れよ」
俺の言葉にとても嬉しそうに笑って大きく頷くと、「じゃあな」と大きく腕を振ってザックスは走ってきた廊下を再び戻って行った。
賑やかな空気が去り、廊下は静けさを取り戻す。
「全く……分かりやすい奴だな、お前は」
俺の目に焼き付いた碧色は、暫く消えなかった。
* * *
いつからだろう。
それに気が付いたのは、いつだろう。
あれは、恋をしている眼差しだ。
本人は必死に隠しているつもりかも知れないけれど、残念ながら物凄く良く分かる。
透けそうな程にほんのりと微かに上気する頬。
透明で綺麗な空色の瞳は、ふとした瞬間に視線が重なると、恥ずかしげに反らされる。
饒舌になったり、そうかと思えば急に黙り込んだり。
そして照れ隠しに、はにかんで笑ってみたり。
そんなお前に気付いてから、いつしか、もうずっと気になって仕方がない。
きっと、俺もお前と同じ気持ちだ。あぁ、間違いなく。
お前に恋している。
いきなり飛び付かれ、抱き付かれ、今までお前のしたいようにさせていたけれど。
俺だって、そういつまでも好き勝手にされてばかりではいられない。
そろそろ、迎撃体勢で構えてみようか。
おもむろに振り返って、お前を抱き締めてやる。驚くくらい、強く強く。
きっと、予想外の事態に慌ててジタバタと手足を動かすに違いない。
きっと、その頬を可愛らしげに薄紅色に染めるに違いない。
捕まえた
ほら、暴れるな……大人しくしろ
ん? お前、いつも抱き付いてくるだろう?
そして、言おう。その間違いなく真っ赤になるであろう耳元にそっと、でもハッキリと。
「そんなお前が、好きだ」
そして俺は、迎撃が成功した事を確信する。
なのに、戦況は俺にとってかなり不利になった。
何故なら、お前が今にも泣きそうな顔で、でもとても嬉しそうに幸せそうに微笑んだから。
瞬間、俺は全てを奪い去られた。恋心なんて、確実に。
もう、愛しくて愛おしくて。
「迎撃」という単語を使いたかったのです。。。。