038.気づく


 それは唐突にやってきた。
 水面に透明な滴が音もなく落ちて、その中心から小さば波が静かに広がるように、体の隅々まで行き渡る。指先、足先、頭の天辺まで届くと、そのまま跳ね返って体の中をあちらこちらへと移動する。
 体温が、ほんの少し上がった。心拍数が、ほんの少し上がった。
 そして、
 ザックスは戸惑いながらも、笑った。


 自分は彼が好きなのだ。自分より数年先にこの世に生まれて、自分より背が高くて逞しくて、寒い地域で育った彼が。
 初めてその姿を目にした時、1stである彼に対する憧れよりも、地味で寡黙な雰囲気に取っ付きにくさを感じた。
 正直、「苦手だ」と思った。
 今なんて、「苦手だ」と思っていた頃の自分を懐かしく、そして少しくすぐったく思ってしまうのに。
 「なぁ」
 「何だ?」
 「うぅん、何でもない」
 呼べば彼の返事が返ってくる。ただそれだけの事がとても嬉しくて、何度も彼を呼んだ。何度も、何度も。


 どんな高感度なセンサーよりもいち早く。
 視線も息遣いも足音も、彼のすべてに俺は気づく。
 好きって気持ち、好きって事は。
 そう、
 これは、恋なのだ。
 とっくに気づいていたけれど。


 ザックスは体温に包まれながら、嬉しくて笑った。




 20140927