時折、途轍もなくめちゃくちゃにして欲しいと思う。
この、どうしようもなく淫らな体を。
どうしようもなく、好きで堪らないあんたに。
だって、
* *
それはお互いに愛しく思う者同士の戯れだった。
ベッドの端に座ったアンジールの上に跨がるようにすると、自分の視線が彼より高くなっていつもと違う感じがした。それは今のザックスにほんの少しの優越感を与え、同時に満足感を生じさせた。
アンジールの頭を愛しさを込めて抱き締めると、すぐにきつく抱き返される。はだけたシャツから露わになっている首筋に彼の吐息を感じたと思ったら、その唇が皮膚の上を辿り始める。耳朶を嬲られる度に、濡れた音がリアルに響いてゾクリとした。その様子を感じ取ったアンジールは小さく笑い、自分の唾液で濡れたザックスの耳朶を甘噛みした。
「ふっ、ぁ」
舌先を耳の奥に差し込まれると、くすぐったさと同時に背筋に快感が走る。その舌の動きが別の箇所で行われる事を連想させて、ザックスは体の奥を俄に熱くさせた。耐えられなくて思わずアンジールの頭を引き剥がすと、そのまま噛み付くように口付けた。
「んっ……」
お互いの熱い口内を、お互いの舌先が舐め回す。舐めて絡ませて、擦り合わせて、そして噛んで。それぞれ一つひとつの動きは至極簡単な事なのに、どうしてこんなに気持ち良いのだろう。どうしてこんなに淫らなのだろう。
「フッ……ぁ……あぁ、」
息をするのも忘れて夢中になる。肺が酸素を求めて思わず声を上げた途端に、唇の端から混ざり合ったふたりの唾液が透明な細い糸となって伝い落ちた。
「アンジール……」
悩ましげにねだるように、そして何処か泣きそうな顔でザックスはアンジールを見つめる。熱く潤む碧い瞳。濡れて充血した唇のわななきが最奥の秘められた箇所に似ていて、アンジールは劣情を突き動かされる。
「どうして欲しいんだ?」
耳元で殊更ゆっくりと囁かれたその低音は卑猥さを存分に含んでいて、ザックスはそれだけでどうにかなりそうだった。現に体の中心は熱を帯びて形を変え、身に着けた下着を押し上げようとしている。アンジールはとっくにそれを知っていて、わざと腰を揺らしてザックスに刺激を与える。すると途端に甘い嬌声が愛しい唇からこぼれ落ちた。
「ほら、言ってみろ。……どうして欲しいんだ?」
ザックスはアンジールを見つける。そして、じれったい程ゆっくりと瞬きをした。
「……犯して」
アンジールの蒼の双璧がすうっと細められた。
「なら……、逃げてみろ」
言葉が発せられたと同時にアンジールはザックスの体を解放した。それと同時にザックスはベッドの上に這い上がり、隅へ背を押し付ける。
与えられたのは、この四角く切り取られた白い空間だけ。大人ふたりが寝るには余る程の大きさだが、逃げ場は限りなくないに等しい。それでもザックスは必死で逃げる。目の前の男から。
アンジールがゆっくりとベッドに上がると、ザックスはビクリと体を震わせた。息を詰めてアンジールを見つめている。良く見ると、肩が小さく震えていた。
『こいつ……』
ザックスが本気で怯えている事に、アンジールの中の情欲が更に煽られる。それと同時に、嗜虐的且つ加虐的な感情がドロリと胸の奥から頭をもたげた。本気で、目の前の男を犯そうと思った。
先に動いたのはアンジールだった。腕を伸ばしてザックスの足首を掴むと、思いっきり引き寄せる。仰向けのまま咄嗟にベッドの柵を掴もうとしたザックスの指先は、むなしく宙を掴んだ。それでも闇雲にシーツを掴む。しかし、頼りなく手の中に布が集まるだけだった。
「やっ……嫌ッ!!」
アンジールはザックスの下着に手を掛けて、一気に引き摺り下ろす。
「っ!!」
突如空気に晒されて一瞬だけヒヤリとした。それは同時に中心が熱を持っている事を思い知らされる。必死に身を捩り逃げようとするものの内股を押さえ付けられて、すぐさま大きな掌で猛ったものを強く握られた。ザックスは堪らずにあられもない声を上げた。
「やあっ!! アァッ!!」
「もうこんなに濡れてるぞ、ほら」
多少強引に扱くと先端から止めどなく体液が溢れ出して、アンジールの指先をあっという間に濡らした。いやらしい音と喘ぎ声が重なり合って部屋に響く。
アンジールが一瞬手を離したその隙を狙って、ザックスは素早く体を起こしてベッドを後ずさる。しかしこれはアンジールの計算通りの事で、そのままザックスの体はベッドの角に押さえ付けられる。
「やっ、やめ……っ」
そして角を跨ぐような格好で脚を開かされると、猛った熱を口内に含まれた。
「アァーッ!! あっ……ん、ああぁ」
痛い程両膝裏から押さえ付けられて、脚を閉じる事が出来ない。自分の脚の間でアンジールの頭が揺れている。卑猥な水音がひっきりなしに聞こえて耳を塞いでしまいたいけれど、それよりアンジールの頭を引き剥がそうと彼の髪の毛を掴む。
「何だ、自分から押さえ付ける程いいのか?」
熱を口に含んだままくぐもった声で、アンジールが何処か楽しげに言った。
「違っ!!」
「何が違うんだ……、いやらしい奴だな」
「はぁ、はぁ……あ、ん……い、痛ッ!!」
きつく吸われたと同時に後孔に指を突き立てられた。まだ固いままに無理矢理ねじ込まれ、痛みと嫌悪感、そして恐怖がザックスを襲う。
「やっ……嫌っ、離し、て……あぁっ、あっ」
ザックスは喘ぎながらも、上半身を横へ倒そうとする。アンジールから逃れようと、必死になって抵抗する。快楽の波に飲み込まれ掛けている体に渾身の力を込めて離れようとした時、不意に体が浮かんだ気がした。壁に押さえ付けられていた背が前のめりになる。抵抗していた力を逆に利用されて、ザックスは自らベッドへと俯せてしまう。間髪を容れずに背後に回り込まれ、腰を高く抱え上げられるとそのまま一気に貫かれた。
「アアーッ!! クッ、あ、あぁ……っ」
痛みと圧倒的な質量に肺が迫り上がるようだった。血管が切れそうになる。ギシギシと軋むベッドの音が、腰を打ち付ける乾いた音と混ざり合う。
「あっ、はあっ……んぅ……、クッ」
ザックスの腕がベッドの柵を掴もうと伸びる。あと少し、指先の距離を残したところでアンジールが腰を抱えて体を引き下げた。
「まだ逃げるのか? もう観念しろ。それにお前だって……」
律動を続けながら、アンジールは前屈みになってザックスの耳元に唇を寄せる。
「こうされたかったんだろう?」
首を左右に振って、ザックスは必死に否定する。しかし、それとは裏腹に彼の脚は徐々に開いていくのであった。
「ほら、自分から脚も開いて……こんなに咥え込んでっ」
「やあぁっ、あ、あ……、あぁっ、」
「まだ逃げるか? ほら、逃げろよ」
アンジールは腰の動きを止めると、自身をザックスの内からズルリと引き抜いた。ねっとりと絡みつく内襞に思わず呻く。そのままザックスの背中を無造作に手で押すと、彼の体がパタリとベッドに倒れた。
「逃げるんだ、ザックス」
振り向いた瞳が熱に浮かされている。半開きの唇からは唾液が伝い落ちていた。ザックスは静かに、うっすらと笑った。その笑みは酷く妖艶だった。しかしそれは一瞬で消え、彼の体がベッドを這うように動く。限りなく有限な空間、でも少しでも遠くへ逃げなければ。
「…………」
アンジールはいつしか、ザックスが自分から逃げようとしているのか自分を誘っているのか分からなくなる。しかしもう、そのどちらでも良かった。今はただ劣情のままに、目の前の体を貪り尽くすだけだった。
伸ばされた腕。振り払って、振り払われて、力の限り掴んで引き寄せる。肌を打つ音が熱に浮かされた脳内に響き渡る。嗚咽と嬌声、残酷な柔らかさと熱。絡み合って縺れ合うそれは、欲望と快楽にまみれた肉塊でしかなかった。
「はぁっ……、ぁ」
延々と何度も何度も高められて、果てさせられる。もう何度目だろうと、ふとぼんやり考えた時に再び熱に貫かれた。目の前にあるシーツはふたりの体液でいやらしく濡れている。両腕を引っ張られて体を反らされると、新たな刺激が快感となる。ザックスは気持ちよさに喘ぎ、顎を逸らした。
『…………』
ベッドのスプリングが軋む音は、自分が犯されている音だ。アンジールが卑猥な言葉を口にしていた。それらを耳にしながら、ザックスは振り仰いだ先にある天井を見ながら、
嬉しくて嬉しくて、笑った。
* *
「……やり過ぎ」
「あぁ。お前が本気だったから、俺も本気で返したまでだ」
「って、俺の所為かよ」
「さぁな」
紫煙をくゆらせながら小さく笑ったその顔は憎たらしいほど格好良くて、ザックスは体の奥が再び疼くのを覚えた。でもそれが何だか悔しくて、目の前の胸板に小さく爪を立てる。何か言われるかと思ったら、何も言われなかった。ただ、じれったいほどに優しく抱き寄せられた。
「…………」
思わず泣きたくなる。喉がキュッとして、鼻の奥がツンとした。溢れ出す思いが強すぎてどうにも出来ず、ザックスはアンジールに体を擦り寄せた。
20121008